3回に分けて連載してきた「クロスメディア・マーケティング」についても、これが最終回となった。この回では、クロスメディア戦略の実例等も交えながら、その効果について考えていきたい。
まず、クロスメディア戦略を考えていく上での基本的な情報を整理していきたい。
■各媒体の特徴
クロスメディア戦略とは、既存のメディアとデジタルメディアをリンクさせることで、 最大の効果を狙っていく戦略であることは、第2回の特集で述べた。クロスメディア戦略を考える上では、各メディアの基本的な情報をまず抑えておく必要があるため、ここで簡単にまとめてみようと思う。
(1)テレビCM
ほぼ全ての世代の全ての人々に「プッシュ型」で情報を配信できる最大の媒体。
このメディアを選択するメリットは、膨大な人に対して映像と音でインパクトのある情報を提供できること。デメリットとしては、15秒という制約があるため、商品やサービスの「理解」を促すのが難しい点。ほとんどの情報がイメージの訴求
や認知を狙った限定的なプロモーションとなってしまう。また、デジタルメディアの普及に伴い、特に若い人たちの層では「プッシュ型」の情報配信に対してそれほどの重要性を持っていないという意見も出ており、テレビの持っていた強力なメディアパワーの神話が崩れてきている。
(2)ラジオCM
数百万単位のリスナーを持ち、音声によるCMに伴う商品認知効果も高いと考えられている。しかしながら、秒数の短さやビジュアル面での訴求力が全くないということから、テレビと同じように「理解」をもたらすことが難しい。
(3)新聞広告
2002年の日本ABC協会発表のレポートによれば、読売1013万部、朝日826万部、毎日394万部、日経304万部と、デジタル時代となっても膨大な読者数を誇っている新聞媒体。全ページをめくる人が多いため、新聞の全面広告等で認知を狙ったインパクトのある広告出稿や、「理解」を促すための詳細な説明付の広告等、様々な手法が適用できるメディアである。
(4)雑誌広告
よりセグメントされた層に対してアプローチすることが可能なメディア。手法としてはWebに最も近いメディアである。テレビや新聞等と比較すると、メディアパワーは弱いが、狙ったターゲットに届き易いという点では、最もセグメントされたメディアと言う事が出来る。
(5)その他のメディア
その他のメディアとしては、屋外広告・SPツール・店頭POP等があるが、いずれも時と場所を選ぶことと、特殊なキャンペーンの中でオプションとして展開されるパターンが多いメディアである。
■クロスメディアで何が出来るか?
各媒体の特徴を抑えた上で、必要となるのはデジタルメディアとの組み合わせ方の手法の検討である。この部分については、WebDesigningの2003年8月号の記事を参考にして検証してみたい。
この記事によれば、デジタルメディアの特徴は、
・認知拡大力
・ベネフィット理解促進力
・ブランディング推進力
の3つであるという。それぞれの力について、事例を用いた興味深い説明があったので引用したい。
まず認知拡大力についてであるが、サントリーが2002年末に行った「スグBOSSキャンペーン」での認知経路についての調査結果から、約2割の人が「ネットのみでの情報入手」だったことが分かった。この結果からは、今後ネットを使ったキャンペーンを無視することが出来ないということになる。また、マス媒体とネット媒体の双方に接触した人のキャンペーン応募意向が、他の層よりも高かったということも分かったのである。今後のキャンペーンの検討において、最大リーチを狙うためには、ネットは不可欠であり、更に他の媒体と絡めた相乗効果を狙う戦略が非常に有効となることが分かった事例である。
ブロードバンドを活用した事例では、有名なBMWのショートフィルムがある。20億円のキャンペーン予算のほとんどをネットにつぎ込んだというこの一大キャンペーンでは、BMWのブランドイメージを認知させるために、ショーフィルムを企画制作し、インターネットでのみ配信した。もともと15秒や30秒の枠や表現上の制約の多いテレビCMではなく、ショートフィルムという手法を用いることで、BMWの世界観を多くの人たちの伝えることに成功した貴重な事例である。しかもこれはブロードバンド 環境が進展したからこそ出来ることであり、その意味でも非常に重要な事例となるのでないだろうか。
また、ベネフィット理解促進力についてであるが、ビデオリサーチの調査によれば、「購入の決め手となった接点は?」という問いに対して、50%を超える回答を得たのは「インターネットの掲示板や情報サイト」「メーカーブランドのWebサイト」「店頭で商品を見て」の3つのみだった。もともと、ネットは受け手の意思に応じて情報を提供する形の「プル型メディア」であるため、商品の「理解」を促すのに適したメディアであると言われてきたが、これがデータでも裏付けられた格好だ。最近の消費者は、十分に比較検討した上で納得しないと購入まで至らないという傾向があるため、このトレンドにもマッチするのがネット媒体であると言うことも可能なのである。
最後に、ブランディング推進力であるが、これは最近の広告戦略において非常に重要視されているブランド力を構築する力がネットにあるということである。「ブランディング」とは、「ある企業が社会にアピールし、受け入れられるに値する価値や信用を構築していく行為」であるとされ、企業の存在意義を示すことと同義とされるほどの重要度の高い考え方になりつつある。電通の調査によれば、このブランドイメージや印象に影響するメディアとして、「テレビ広告」「メーカーブランドのWebサイト」「雑誌広告」が上位3つの回答だったという。これを私なりに分析してみると、テレビ広告や雑誌広告が提供するブランドイメージは、企業の特徴を映像や音楽やビジュアルを用いて効果的かつ視覚的に消費者にイメージさせるときに有効なメディアであると考えられるのに対して、Webメディアの場合には、最近よく言われる「ユーザーエクスペアレンス」を提供することが出来るメディアと言う事が出来るのではないだろうか。サイトに訪れるユーザーに対して、その企業独自のコンテンツを提供することにより、ユーザーに「経験」を提供することが可能となり、企業のメッセージへの「理解」を深めることが出来るのである。また、Webサイトは様々な形態を伴って現在まで発展してきたが、その過程で様々な機能を持つようになってきた。それは、広告宣伝の要素であるし、販売や流通の要素であるし、商品開発の要素でもある。Webは企業のあらゆる活動を統合的に提供できるという面で、これまでの媒体のどれにもない全く新しい力を持つメディアであると言う事が可能なのである。企業活動そのものがブランディング活動であるとするならば、Webサイトはまさにそのブランドを構築していく重要なツールとなりうるのではないだろうか?
WebDesigningの2003年8月号で紹介されている「クロスメディア戦略」の成功事例
・BMWショートフィルム
⇒アドバテインメントの先端を行く事例。BMWのブランドイメージ醸成のために、かなりの予算を投下して制作したショートフィルムがインパクトを持たせている。ショートフィルムを使ったことで、テレビCMの制約であったカーチェイスやスタント的な映像等のタブーに挑戦している。カンヌ国際映画祭の2002年のグランプリを受賞。
・サントリーBOSSキャンペーン
⇒浜崎あゆみを使ったテレビCM、ラジオCM、交通広告、新聞広告、各種バナー広告、店頭や自動販売機でのポスター、店頭POP等、あらゆるメディアを駆使。その後キャンペーンサイトへユーザーを誘導し、誰もが気軽に応募できる環境を整備。年間15億本の売上を誇るBOSSならではの巨大なクロスメディアキャンペーンだ。
・日産自動車 Web CINEMA TRUNK
・GAP